NPO法人 民事信託普及協会は、信託を利用して老後の不安、認知症対策、親なきあと問題など様々な不安や悩みの解消を提案するとともに、信託契約書を作成する法人であり、また信託専門士の資格である「民事信託コーディネーター®」の育成及び資格取得支援を行うNPO法人です。
民事信託は認知症対策として、多くの方が利用していますので、その仕組みを少し詳しくご紹介しますが、その前に、信託制度について簡単に説明します。
民事信託と商事信託
日本で初めて信託法ができたのは、大正11年の事でした。この信託は財産を信託(信じて託す)する委託者、財産を預かる受託者、それぞれが収益を期待する信託です。現在は投資信託やiDeco(個人型確定拠出年金)や、NISAなどで利用されています。この信託を扱うものは信託銀行や信託会社といった法人組織でなくては認可されず、また設立当初の自己資金は6000万円以上が準備できていないと、認可されません。この信託のことを商事信託と言います。
●2007年改正信託法施行
この商事信託という制度が改正され施行されたのは、2007年(平成19年)です。商事信託がスタートして実に85年ぶりの大改正になりました。大きな改正点は委託者も受託者も個人が行う事ができるようになりました。また、商事信託のように収益を期待するものではなく、一定の目的を達成するために財産を信託します。また、信託財産から財産を受け取る受益者は、必ずしも委託者だけではなく、委託者の家族等も受け取ることができます。
この信託を民事信託といい、その中でも、委託者、受託者、受益者が家族で構成されている信託の事を家族信託とも呼びます。
認知症罹患後、家族の暮らしを守る
信託法が改正されてから、民事信託の制度を利用使用した様々な事例が報告されていますが、その中で最も多く利用されているのが、「 認知症対策」です。
○認知症対策以外の利用例は信託制度のページをご覧ください。
- 財産管理と契約行為の禁止
認知症の症状が進行すると、自宅に訪れたセールスマンに高額な商品を売りつけられたり、預金を騙し取られたりと財産管理が出来なくなります。財産管理ができないと判断されると、銀行預金を下ろしたり解約することが禁止されます。また、賃貸アパートの入居者との契約や変更、解除などの契約行為も禁止されます。
認知症の症状が進んでくると、家族では支えきれなくなり、成年後見人の選任を家庭裁判所に申立て、財産管理や身上監護など後見人が本人を保護するようになります。
しかしこれで安心かといえば、不自由な点が残ります。たとえば、認知症になった方の年金収入が家族の生活に欠かせないような場合は、家族が後見人に生活費の給付を求めますが、後見人は法律に基づき、職務は認知症になった方を守ることであり、家族を守ることは職務にはありませんので、家族に財産を渡す場合は、裁判所の許可が必要になります。裁判所ではこれを認めてくれることは少ないようです。また、後見人と被後見人の家族との折り合いが悪く、後見人とは疎遠になってしまうとか、本来、第三者に家族の財産を管理させることに抵抗感があるなどがそれです。
民事信託で認知症対策
このような不自由さを解消するには、2007年改正施行の改正信託法、いわゆる民事信託制度の活用が有効であり、利用者も年々増加してきています。なお、民事信託を利用する際は、財産を信託する人と、財産を受託する人との間で「信託契約書」を作成しなければいけません。この契約書作成を担うのが、民事信託専門士である民事信託コーディネーターです。司法書士や弁護士、税理士なども受付けています。
民事信託(家族信託)の基本スキーム

家族信託スキーム図の説明
- ① 父親と息子の間で信託の利用目的を明確にし、「信託契約書」を交わします。信託契約書には、父親から信託された財産をどのように管理して、どのように処分するのか、また父親が死亡した後に残った財産は、誰に帰属させるかなどを定めておきます。
- ② 父親が所有する財産を息子に移転させます。信託法では、息子に移動した財産について、息子は財産を管理する管理者という扱いであり、本来の所有者は父親である。ということから、財産の移動時に贈与税などの課税はありません。また、息子が管理す信託財産の中の現預金は、息子固有の財産とは分別管理することが義務付けられていますので、新たな口座(信託口口座など)を開設して管理すること。不動産については「信託を原因とする所有権移転」の登記が必要です。
- ③ 息子は信託契約書に定められたことに従って、手続きや支出などを行います。医療機関への入院や施設入所の際に必要な身元保証人の受任、医療費の支払い、アパートの入退去者との契約、配偶者や家族への生活費、教育費等の支出などです。
なお、父親が認知症になり、後見人が選任された場合でも、後見人が管理する財産は、信託財産以外の財産のみであり、信託財産は息子の管理が継続されます。かりに父親に負債があり、差押え処分になった場合でも、信託財産は差押え処分の対象とはなりません。
近年、リスキリング(Reskilling)再教育が提案されていますが、当協会は、皆さんがこれまで社会で培ってきた対人調整能力、相談対応能力、指導能力などの保有スキルを生かし、さらに高齢者やその家族からの相談等に対応するために、「民事信託コーディネーター」の資格を追加スキル(Addskilling)と捉えて、ぜひ取得されるよう提案しています。
終活相談と民事信託コーディネーター®
普及協会では、2018年からスタートした「NPO法人しらかみ終活相談所」との連携で業務を行っています。終活相談所には様々な悩み・不安を抱えた個人や団体、行政、福祉施設などから相談が入ります。問題の多くは民事信託以外の対応で解決できますが、民事信託の活用で相談者の希望を実現できるケースが増加してきています。今後もこのような民事信託の活用場面が増加すると予想されます。
